ミャンマーの投資環境
ミャンマーの投資環境
Ⅰ概要
ミャンマー連邦共和国はインドシナ半島西部に位置し、面積68万平方キロメートル、人口約6千万人を有する共和制国家。軍政主導による政治が続き、政治の民主化等を求める欧米から経済制裁を受けるなどして経済は停滞していましたが、2010年11月7日に行われた総選挙により形式的には議会制民主主義への移管がなされ、その他の政治的事情も改善の動きが見られる中、ASEAN諸国の中でも今後の発展が最も期待される国の1つと見なされています。
①産業構造の変化
第一次産業である農業への依存度が高く、2008年度のGDP統計による全産業に占める農業部門の割合は33.8%となっています。なお、工業化が遅れていたミャンマーですが、2003年7月に発動された米国の経済制裁により大きな打撃を受けた縫製業が日本向けを中心に伸張するなど製造業部門が占める割合は年々高まっており、今後もこの傾向は進んで行くものと思われます。
②外国投資法の改正
外国投資法に基づきミャンマー投資委員会(MIC)の認可を受けた外国からの直接投資は年間数件(2009年度実績: 投資件数7件、投資額3億235万USドル)しかありませんが、既存の現地法人株式の取得、現地企業との業務提携などの形での進出が見られます。なお、投資の奨励を意図した外国投資法をはじめとする法制や制度改正の予定が2011年9月に発表され、また2011年1月には経済特区法が公布されるなどしており、ミャンマーへの投資の自由化が加速すると期待されています。
③インフラの整備
高速道路、幹線道路から工業団地へ向かう道路などの整備が進んでおらず、空港、港湾および鉄道網などと併せた物流インフラの改善は、今後のミャンマーの発展にとって欠かせません。また、携帯電話による通話やインターネット接続が不安定であり、通信インフラの改善も強く望まれます。電力供給も特に乾期においては不安定であり、自家発電を余儀なくされることが生産コストを押し上げる一因にもなっています。但し、いずれも改善されつつあり、これらインフラの整備が経済成長を後押ししていくものと思われます。
④持続的な経済成長率
ミャンマーのGDP成長率は、世界金融危機の影響を受けて3.6%まで落ち込んだ2008年を除いて、安定的に5%以上の水準を保っており、今後も持続的な成長が見込まれています。
アジア開発銀行が発表しているミャンマーのGDP成長率は、次の通りです。
ミャンマーのGDP成長率(アジア開発銀行による公表数値、対前年比)
2006年:
7.0%
2007年:
5.5%
2008年:
3.6%
2009年:
5.1%
2010年:
5.3%(見込み)
2011年:
5.5%(見込み)

⑤落ち着きを取り戻した物価上昇
ミャンマーの物価は、2008年中頃まで急激に上昇していましたが、世界的な燃料価格下落や食料価格下落などもあり、それ以降は落ち着いた動きをしています。アジア開発銀行が発表しているミャンマーの消費者物価指数は、次の通りです。
ミャンマーの消費者物価指数(アジア開発銀行による公表数値、対前年比)
2006年:
26.3%
2007年:
32.9%
2008年:
22.5%
2009年:
8.2%
2010年:
5.3%
2011年:
7.3%(見込み)
Ⅲ政治
①内政
民主化要求デモにより26年間続いた社会主義政権が崩壊し、1988年9月から2011年3月までは、民主化デモを鎮圧した国軍による統治が続きました。その間の1990年5月には総選挙が実施され、アウン・サン・スーチー女史率いる国民民主連盟(NLD)が圧勝したものの、軍政側は憲法制定を優先する必要があるとして政権移譲は行われませんでした。なお、憲法に関しては、国民会議での継続的審議や草案採択のための国民投票(賛成票 92.4%)を経て、2008年5月に新憲法が承認されています。
その後は、2010年11月に実施された総選挙や2011年1月の国会召集および大統領選出を経て、2011年3月30日には新政権が発足し、軍政からの政権移譲がなされています。
②対外関係
米国は、1990年5月の選挙結果を前提とした民主化実現、人権問題解消および麻薬撲滅などを要求している他、1997年4月以降は米国企業の新規投資を禁じ、2003年7月以降は貿易および米ドル送金も禁止しています。また、2007年に発生したデモ隊の軍政による武力鎮圧を契機に、米国による経済制裁は一層強められています。なお、EUは、国によって温度差はあるものの、各種の経済制裁を加えており、カナダ、オーストラリアもそれに追従する形となっています。
日本に関しては、国民の合意を得た民主化実現を要求し、経済援助の枠を絞り込むなどの対応を行ってはいるものの、経済制裁を課してはおらず、欧米とは一線を画した対応を採っています。
中国、タイ、インドなどの周辺諸国は自国の権益拡大を狙ってミャンマーとの関係を強化しており、道路、港湾、発電所、天然ガス田などの開発への関与を積極的に行っています。
Ⅳ会社設立
外国企業が取り得るビジネス形態
①100%外国資本による企業設立
外国企業が全額出資して会社を設立する形態。
②現地資本との合弁による企業設立
ミャンマー企業または個人との合弁により会社を設立する形態。この場合、外資は双資本の35%以上である必要があります。
③支店・駐在員事務所の設立
ミャンマー会社法に基づき設置される支店あるいは駐在員事務所を設立する形態。駐在員事務所としての進出であっても、会社法上は一般的には支店として登記されます。
④パートナーシップによる事業
業等を設立せず、ミャンマー企業と合弁事業を行う形態。成果物は合弁契約に基づき分与されます。
⑤業務提携による事業
企業等を設立せず、ミャンマー企業に製造設備等を貸与(販売)し、原料を供給して、委託加工を行う形態。
会社設立に関する法律
外国企業は、「外国投資法」あるいは「会社法」のいずれかに基づいて会社を設立することになります。
①外国投資法に基づく会社設立
ミャンマー投資委員会(MIC)に申請し、投資許可を受けた上で、営業許可を受けて設立されます。外国投資法に基づき設立された企業は、税減免措置等の優遇措置を受けられます。最低資本金は、製造業50万米ドル、サービス業30万米ドル。
②会社法に基づく会社設立
ミャンマー投資委員会の許可を得ずに営業許可を受けて設立されます。
最低資本金は、製造業100万チャット相当の外貨、商業50万チャット相当の外貨、サービス業30万チャット相当の外貨。
※公定レート:1米ドル=約5.5チャット
Ⅴ税制
①法人所得税
ミャンマーで設立された法人に関する課税対象所得の範囲および税率は次の通りです。
・外国投資法に基づいて設立された法人
課税対象所得:
ミャンマー国内所得
適用税率:
25%
・ミャンマー会社法に基づいて設立された法人
課税対象所得:
全世界所得
適用税率:
25%
・外国企業の支店等
課税対象所得:
ミャンマー国内所得
適用税率:
35%
②個人所得税
ミャンマー居住する外国人およびミャンマー非居住外国人に支払われる給与に関する課税対象所得の範囲および税率は次の通りです。
・ミャンマー居住外国人
課税対象所得:
全世界所得
適用税率:
ドル給与所得15%、チャット給与取得3~30%
・ミャンマー非居住外国人
課税対象所得:
ミャンマー国内所得
適用税率:
35%
③商業税
商品の販売やサービスの提供に対して課される付加価値税で、品目やサービスの内容によって3~200%の税率が存在する。なお、他社に支払った商業税は、自社の売上により受け取った商業税から控除して申告・納付する。
Ⅵ貿易
①輸出入
ミャンマー政府が、輸出で得た外貨の範囲内でのみ輸入を認める政策を採っていることもあり、2009年までの貿易収支は8年連続で黒字となっています。2009年度の輸出額は412億8,910万チャット、輸入額は228億3,740万チャットで、貿易黒字額は184億5,170万チャットに達しています。
主な輸出品目は、天然ガス、縫製品、豆類・米・ゴマなどの農産物、水産物などですが、天然ガスの輸出額が突出しており、総輸出額の約4割を占めています。国・地域別では、タイ、インド、香港、シンガポール、中国への輸出が多く、これら5カ国への輸出で、総輸出額の約8割を占めています。 また、主な輸入品目は、一般・輸送機械、精油、金属・同製品であり、これら品目で総輸入額の約5割弱を占めています。国・地域別では、中国、シンガポール、タイ、日本、韓国からの輸入が多く、これら5カ国からの輸入で、総輸入額の約8割を占めています。
②為替相場
多重為替相場制が採られており、中央銀行が定める公定レート(1ドル=5.5チャット程度)および公認市場レート(1ドル=450チャット程度)の他に米ドル実勢レート(1ドル=850チャット程度)が存在していますが、実際の経済活動は実勢レートにて行われています。
なお、2011年10月、ネピードーにおいて国際通貨基金(IMF)の専門チームと協議の場を設けるなど、ミャンマー政府は多重為替レートの統合に向けた検討を進めています。
③CMP(Cutting, Making and Packing)
輸入した原材料をすべて加工し、完成品を輸出した上で委託加工賃を得るビジネス形態で、縫製業などに多く見られます。事前にミャンマー投資委員会に申請・承認を得て企業登記手続きを行うことで、原材料輸入の免税を得ることができます。
Ⅵ人的資源
①人口
ミャンマーの総人口は、最後に行われた1991年の人口調査を基にした推計によると約6千万人とされ、人口構成は典型的なピラミッド型の構造となっています。その内、中央乾燥地帯(マンダレー管区、ザガイン管区、マグェー管区)およびデルタ地帯(ヤンゴン管区、バゴ-管区、エーヤーワディー管区)の人口が総人口の約7割を占めていると考えられます。
②賃金水準
賃金水準についての公的な資料はありませんが、縫製工場の一般工員の月額給与水準で、50米ドル程度と言われています。
③教育
保護者の教育意識の高さや仏教寺院が教育機関的な役割を担ってきたこともあり、ミャンマーの識字率は、他の後発途上国と比較してかなり高いことで知られています。なお、公教育の制度としては、10年制の基礎教育および高等教育がありますが、義務教育の制度は採っていません。